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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)476号 判決 1961年11月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

所論(一)は、原判決が、上告人の主張する無償証明請求却下処分なるものは、上告人の証明請求に対し被上告人東京都中野区長がなした手数料賦課処分とは別個独立に無償証明請求の却下処分であつたものと解すべきでない旨、判示したのは、法令の解釈を誤つたものである、というにある。しかし、原判決は、挙示の証拠により、上告人が被上告人区長に対し、健康保険法に基づく上告人の長女みつこの哺育手当金請求のため必要であるとして、哺育した旨の証明を無償で申出でたところ、同区長はその申出を拒否し手数料三〇円を賦課徴収して右哺育証明をした旨の事実を適法に確定した上で、かかる場合には、手数料の賦課がありその納付があつて証明がなされた以上、無償証明の拒否は独立の行政処分と解すべきでないと判示して、上告人の無償証明請求却下処分の無効確認及び取消を求める訴を却下したものであること、原判文上明白である。そして原判決認定の事実関係の下においては、原判決の右判示を首肯しえないものでないから、原判決には所論法令違反の違法を認めることができない。論旨は理由がない。

所論(二)は、上告人が求めた所論哺育証明は戸籍記載事項の証明である、と主張する。しかし、所論の配偶者の氏名、出生児の氏名、生年月日、上告人との続柄(性別)は戸籍記載事項の証明によつて証明できるけれども、哺育証明は健康保険法五〇条の二による哺育手当金請求のための証明であり、即ち哺育した事実に関する証明(子であつても哺育しない場合には哺育手当の給付はない)であつて戸籍記載事項の証明でないのであるから、右と同趣旨に出でた原判決は正当であり、所論は採用できない。

同第二点について。

所論(一)は、保険者たる東京都には上告人の長女みつこが被保険者である上告人の被扶養者で同居しており哺育している事実も明らかであるから、所論「哺育証明」は戸籍記載事項の証明のほか何の意味もないものであるのに、原判決が戸籍記載事項の証明でないと判示したのは、判断遺脱であり、かつ採証法則違背である、というにある。しかし、健康保険法五〇条の二による哺育手当は被保険者が出生児を哺育したときに支給するものであり、同哺育証明はかかる事実の証明にほかならないこと上告理由第一点について説示したとおりであるから、原判決が哺育証明が戸籍記載事項の証明でないと判示したのは正当であり、原判決には所論の違法はない。論旨は理由がない。

所論(二)は、原判決には判断遺脱、採証法則違背の違法がある、というにある。しかし、原判決の事実摘示及び挙示の証拠関係に徴すると、所論原判示を首肯するに十分であるから、原判決には所論の違法は認められない。論旨は理由がない。

同第三点について。

原判決は、本件手数料の賦課が法令ないし条例の趣旨に反し無効でない点につき、十分に説示していること判文上明白であるから、所論(一)の理由不備、判断遺脱の所論は、到底採用できない。

旧国家公務員共済組合法一一条と健康保険法七条とはその規定を異にしておるので、後者の解釈に際し、前者についての説明を要しないこと勿論であり、前者の趣旨を後者に及ぼす必要もないから、所論(二)の理由不備、判断遺脱の主張も採用できない。

同第四点について。

所論は、ひつきよう、原審の裁量に委ねられた証拠の取捨判断ないし原判決において適法になした事実の確定を非難するもので、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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